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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)414号 判決

原告

代表者代表取締役

【A】

被告

特許庁長官【B】

指定代理人

【C】

【D】

【E】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告

特許庁が平成10年異議第92131号事件について平成11年11月22日にした決定を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、別紙商標目録のとおりの構成からなり、第9類「眼鏡、眼鏡の部品及び付属品」を指定商品とする登録第4176206号商標(平成8年9月3日出願、平成10年6月29日登録査定、同年8月14日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。

ザ・バートン・コーポレーション(以下「訴外会社」という。)は、本件商標について、平成10年11月13日に登録異議の申立てをし、特許庁は、これにつき、平成10年異議第92131号事件として審理をした結果、平成11年11月22日、「登録第4176206号商標の登録を取消す。」との決定をし、平成11年11月26日、原告にその謄本を送達した。

2  本件決定の理由

本件決定の理由は、別紙決定書の理由の写しのとおりである。要するに、本件商標は、その商標中に他人である訴外会社の著名な商標「BURTON」、「バートン」(以下「引用商標」という。)を含むものであり、かつ、本件商標の指定商品と引用商標に使用される商品とは、その商品の生産者・販売場所・需要者の範囲等において関連を有する商品といえるものであるため、商標権者が本件商標をその指定商品について使用するときは、訴外会社の使用に係る商標が連想、想起され、同人又は同人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように商品の出所について少なからず混同を生ずるおそれがあるから、本件商標の登録は、商標法4条1項15号に違反してされたものであり、同法43条の3第2項により取り消すべきである、とするものである。

第3原告主張の審決取消事由の要点

本件決定は、引用商標が他人の周知著名な商標であると誤認し、引用商標以外の周知又は著名な「BURTON」商標の存在を看過し、本件商標の指定商品と引用商標の使用商品が関連性を有するものと誤認し、その結果、本件商標と引用商標とが出所混同のおそれがあると誤った判断をし、本件商標の登録を取り消すとの誤った結論を導いたものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

1  引用商標の周知著名性について

「スノーボード」は、数年前にようやく我が国のスキー場において受け入れられるようになったものであり、訴外会社の商品であるスノーボードに引用商標が付されて我が国の市場に登場してから日が浅い。引用商標の付された商品は、我が国において、一般のデパートやスーパー等では全く売られておらず、単にスキー専門店、スポーツ専門店でのみ販売されているものであり、また、若者の中の特殊な愛好家により購入されていただけである。

しかも、訴外会社は、我が国において、自ら引用商標についての商標権を有しているわけではなく、平成6年12月5日に、メルボ紳士服株式会社から登録番号第664522号商標(旧第17類「バルトンBURTON」)を、同様に、三共生興株式会社からは登録番号第1229927号商標(旧第21類「BURTON」)をそれぞれ買収し、これを使用しているものである。

したがって、引用商標は、本件商標の出願時及び審決時において周知著名であったとはいえない。

2  引用商標以外の周知又は著名な「BURTON」商標の存在の看過について

(1)  原告は、メルボ紳士服株式会社から、上記登録番号第664522号商標の使用許諾を受け、これを昭和57年6月1日から平成5年5月31日までの11年間、第三者に再許諾をして使用させており、同様に、三共生興株式会社から、上記登録番号第1229927号商標の使用許諾を受け、昭和60年10月1日から平成6年9月30日までの9年間、第三者に再許諾をして使用させていたものである。

(2)  バートン・ゴルフ社(旧社名「バートン・マニファクチュアリング・カンパニー・インコーポレイテッド」、)は、米国において、「BURTON」商標を付したゴルフ・バッグを販売している会社であり、その店舗は、米国内に10か所もある。同社は、我が国において、昭和51年、旧第24類で「BURTON」商標の登録出願をし、同社の商品を、スポーツ用品の大手企業であるダイワ精工株式会社が、輸入代理店となって取り扱っていた。「BURTON」商標の付されたゴルフ・バッグは、米国内で有名であるのみならず、我が国のゴルフファンの間でも、知らない人はいないほどに有名であり、このことは、ユニバーサルゴルフ社の「ゴルフ用品総合カタログ・内外有名ブランド総掲載」の「1988年版」と「1989年版」に「BURTON」の「ゴルフ・バッグ」の広告が掲載されていることからも明らかである(甲第20号証の1、2)。なお、バートン・ゴルフ社と訴外会社は、会社規模が拮抗しており、いずれも「BURTON」商標を使用している会社として知られている。

(3)  また、【F】の有するニューヨークの有名なバートン・ブティック社は、有名なファッション店であり、「BURTON」の名称は、70年代ニューヨークに始まり日本でも大流行した「プレッピー・ファッション」の代表的ブランドであったものである。

(4)  英国では、ロンドンの目抜き通りのリージェント街に店を構える「BURTON MENSWEAR」ストアーが「メンズ・ショップ」として有名であり、英国人で知らない人はいないほど有名であり、日本人の観光客も多数押しかけるほどに有名である。

(5)  日本国内でも、東洋ゴム工業株式会社が、昭和45年から、「BURTON」ブランドの靴を販売しており、現在では三菱商事系列のライフキアコーポレーション株式会社に引き継がれている。

(6)  以上のとおり、「BURTON」商標は、訴外会社のみならず、原告その他米国、英国、日本の諸会社により、訴外会社が使用するより先に使用され、周知又は著名となっていたのである。このような「BURTON」商標を訴外会社が独占することは、背理というべきである。

3  本件商標の指定商品と引用商標に使用される商品との関連性の誤認について

仮に引用商標が本件商標の出願当時に我が国で著名であったとしても、本件商標の指定商品は、純粋なファッション商品であり、訴外会社の展開するスポーツ関連商品とは関連性がなく、売り場も全く異なっていて、混同を生ずるおそれはない。

第4被告の反論の要点

本件決定の認定判断は、すべて正当であり、本件決定を取り消すべき理由はない。

1  引用商標の周知著名性の誤認について

乙第6号証ないし乙第10号証の記載を総合すれば、訴外会社は、スノーボード関連商品(スノーボード、スノーボード用靴、ウエア等)に引用商標を使用してきていること、引用商標は、我が国においても、本件商標の出願時に取引者、需要者の間に広く認識されるに至っていたことが明らかである。

2  引用商標以外の周知又は著名な「BURTON」商標の存在の看過について

原告の引用する登録第664522号に係る商標権は、昭和57年6月1日から平成5年5月31日まで、メルボ紳士服株式会社から原告に専用使用が許諾され、登録第1229927号に係る商標権は、昭和60年10月1日から平成6年9月30日まで、三共生興株式会社から原告に使用が許諾されたことは認められるが、当該商標が使用されたことを認めるべき証拠はない。

原告は、「BURTON」商標は、原告その他米国、英国、日本の諸会社により、訴外会社より先に使用され、周知又は著名となっていたと主張する。

しかし、原告主張の会社が「BURTON」商標を使用していることが窺えるとしても、それが有名であるということを認め得る証拠を見出すことはできない。

3  本件商標の指定商品と引用商標に使用される商品との関連性の誤認について

スポーツを行う場合、そのスポーツに適した衣服、手袋、サングラス、時計等を使用する場合が多い一般的な実情よりすれば、「スノーボード」もその例外ではなく、本件商標の指定商品と引用商標の使用される商品とは、生産者、需要者の範囲等において共通点を有するものである。

第5当裁判所の判断

1  まず、引用商標の周知著名性について検討する。

乙第3号証(「Forbes(フォーブス)」(1996年2月1日号)の日本版)、乙第4号証(1995年(平成7年)10月1日主婦と生活社発行「SNOWBOARD」)、乙第5号証(「skier別冊SNOWBOARD(1996年3月号)」)、乙第6号証(平成8年4月24日発行「SNB」4月号)、乙第7号証(「平成3年12月7日、平成7年3月16日、同年4月7日、同年9月11日、同年12月29日、平成8年1月20日付けの各日経流通新聞、平成8年3月19日、同月22日付けの各繊研新聞、平成3年1月1日、平成7年2月20日、同年3月1日、平成8年3月1日付けのスポーツ産業新報)、乙第8号証(平成8年10月15日祥伝社発行「BOON EXTRA」)、乙第9号証(平成8年12月25日山と渓谷社発行「SKIER別冊SNCWBOARD1997年No.3」)、乙第10号証(平成3年、平成4年、平成6年日本貿易振興会海外情報センター各発行「輸入商品(消費財)売れ筋動向」)によれば、スノーボードは、米国においては、1980年に入って急激に人気が高まったこと、訴外会社は、その取り扱う商品であるスノーボード関連商品(スノーボード、スノーボード用靴、スノーボード用手袋、被服、バッグ、ゴーグル、サングラス等)に引用商標を使用してきており、平成8年2月当時において訴外会社の米国におけるスノーボードの市場(規模約750億円)の占有率は30%以上となっていたこと、我が国においても、遅くとも平成8年半ばまでには、米国の後を追ってスノーボードの人気は急激に高まってきていたこと(平成10年開催の長野オリンピックにも公式種目として採用された。)、引用商標の付されたスノーボード関連商品の多くは、最も人気の高いものとされていることが認められ、これによれば、引用商標は、特定の出所のスノーボード関連商品を表示するものとして、本件商標の登録出願前より、我が国において、若者を中心とする一般消費者の間に周知著名となっていたものと認められる。

上記認定を左右するに足りる証拠はない。引用商標の周知著名性についての原告の主張は、いずれも採用することができない。

2  上記認定の事実を基礎として、本願商標をその指定商品に使用した場合に、他人の業務に係る商品との間で出所の混同を生ずるおそれがあったかどうかについて検討する。

本件商標が、別紙商標目録のとおりの構成からなり、その構成の一部に引用商標の「BURTON」という欧文字を含んでいることは、自明である。 引用商標が付される商品は、上記認定のとおり、スノーボード、スノーボード用靴、スノーボード用手袋、被服、バッグ、ゴーグル、サングラス等であり、一方、本件商標は、「眼鏡、眼鏡の部品及び付属品」を指定商品とするものであって、いずれも、身の回りの商品であり、ファッション(装身に関する流行)に関係がある点で共通しており、とりわけ、サングラスは、両者に共通する商品である。そうすると、本件商標の出願時において、本件商標がその指定商品である「眼鏡、眼鏡の部品及び付属品」に使用された場合には、本件商標に接した需要者は、これが上記のとおり「BURTON」という欧文字を含んでいることから、引用商標を想起し、これを通じて、本件商標が付される商品について、訴外会社又は同社と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように誤解し、その出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。

そして、本願商標の登録出願後、登録査定時までに、事情の変更があったと認めるに足りる証拠はないから、査定時においても、商品の出所の混同のおそれは、なお継続していたものというべきである。

3  原告は、「BURTON」商標は、原告その他の者によって、訴外会社が使用を始めるより前から使用され、周知又は著名となっていたのであるから、訴外会社が、「BURTON」商標を独占することはできない旨主張する。

しかし、本件で問題となっているのは、本件商標につき商標法4条1項15号該当性が認められるか否かのみであって、これが肯定されるからといって、訴外会社が「BURTON」商標を独占することになるものでないことは、いうまでもない。例えば、原告が登録を得ている「BURTON」商標(甲第36号証、第37号証)、本件商標中の図形部分(鳩のマーク)に係る商標(甲第8号証)の効力の有無は、本件によって何ら影響を受けるものではない。

また、原告の主張が、引用商標以外の周知著名の「BURTON」商標の存在により、引用商標の周知著名性が減殺され、そのことを通じて、本件商標の商標法4条1項15号該当性が失われるとの趣旨であるとしても、採用できない。

商標法4条1項15号は、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」について商標登録を受けることができないとしているのであるから、訴外会社以外の者がある商品又は役務に「BURTON」商標を使用していたとしても、さらには、これがそのようなものとして周知著名となっていたとしても、それが、スノーボード関連商品につき訴外会社によって使用される引用商標の周知著名性が失われるということに結び付かない限り、本件商標を付した商品と引用商標を付した商品との間の出所の混同のおそれの有無の判断が影響を受けることはあり得ない。ところが、本件全証拠によっても、訴外会社以外の者が「BURTON」商標を使用していることによって引用商標の周知著名性が失われたという事実を認めることはできない。

原告は、本件商標の指定商品は、純粋なファッション商品であり、訴外会社の展開するスポーツ関連商品とは関連性がなく、売り場も全く異なっていて、混同を生ずるおそれはない旨主張する。

しかしながら、引用商標が付される商品であるスノーボード、スノーボード用靴、スノーボード用手袋、被服、バッグ、ゴーグル、サングラス等が、ファッションに関連することは、乙第3号証に、「スノーボーディングはスポーツというより、90年代の若者のライフスタイルを象徴するサブカルチャーだ。彼らは、スノーボーダーと呼ばれ、その80%が25歳までの若者だ。カリフォルニア・ファッションを取り入れたダブダブのスノーボーディングウェアを身にまとい、耳にイヤリングをぶら下げ、髪を奇抜な色に染めて、仲間だけに通用するスノーボーダー語で話す。」(146頁下段18行~末行)という記載があり、また、乙第9号証におけるスノーボード関連商品の紹介記事において、単に性能、機能のみならず、いわゆる「カッコよさ」が購買の大きな要素となっているとされていることからも明らかである。

原告の主張は採用できない。

4  以上のとおりであるから、原告主張の取消事由は理由がなく、その他本件決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見出せない。

よって、本訴請求を棄却することし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

〈以下省略〉

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